代表者挨拶

小川 渉先生J-ORBIT事業は日本肥満学会が進めている学術研究の一つであり、SS-MIX2を利用して電子診療録から直接情報を収集しデータベース化するという画期的な事業です。SS-MIX2は厚労省などの支援によって整備された電子診療録情報バックアップシステムであり、多くの大規模病院の電子カルテ情報はSS-MIX2に保存されています。ただ、SS-MIX2に保存されるのは検体検査や処方といったコード化された構造化データであり、診療録内に通常タイピングで記載される病歴や症状、身体所見などの非構造化データは、そのままの形では保存できません。

J-ORBITでは、肥満症に関する診療情報を記載できる肥満症診療テンプレートを電子診療録に組み込むことにより、「非構造化データ」を「構造化データ」に変換するシステムを作成し、これにより検体検査や処方などとともに、日々の診療情報がSS-MIX2内に保管され、定期的にデータセンターへ送信することを可能としました。すなわち、J-ORBITは電子診療録を用いて日常診療を行うだけで、臨床情報が蓄積されるシステムといえます。

日本肥満学会は様々な先駆的概念を世界に発信してきましたが、肥満症の臨床情報や診療実態についての知見は十分に収集されていないのが実情です。J-ORBITでは今後3年ほどの間に、全国20程度の施設から数万人規模のデータを収集できるシステムを構築することを目指しており、このシステムにより、大規模・包括的に肥満症の診療情報が継続的に蓄積していくデータベースの構築が可能となります。このようなデータベースから得られる情報は肥満症学の進歩や肥満症診療の発展に寄与するだけでなく、肥満が多様な健康障害の発症基盤となることを踏まえると、様々な疾患分野の診療や研究にも活用できると考えられます。

研究代表者として、今後J-ORBIT事業の発展のため精一杯努力してゆく所存です。
各方面の皆様には、何卒ご支援、ご協力頂きますようお願い申し上げます。

日本肥満学会理事 学術委員長
神戸大学大学院医学研究科
内科学講座 糖尿病・内分泌内科学部門

小 川 渉

J-ORBITへの期待

門脇 孝先生日本肥満学会は、医療の対象となる肥満者を抽出することを目的として、世界に先駆けて「肥満症」の疾患概念を確立しました。肥満が脂肪蓄積のサロゲート指標であるBMIでのみ定義されてきた中で、「肥満症」の概念を確立したことは極めて先駆的といえます。最近の欧米の学会のステートメントでも、BMIのみではなく、健康障害の合併や発症リスクの観点から肥満を再定義することが議論されており、「肥満症」の概念は海外の学問潮流に影響を及ぼしてきました。

また内臓脂肪蓄積が皮下脂肪蓄積に比べて代謝障害などの健康障害を引き起こしやすいことが、日本人を対象とした研究によって明らかとなったことを受け、日本肥満学会では内臓脂肪型肥満の概念を提唱しました。欧米でもBMIが同等であっても健康障害のおこしやすさには個人差があることが認識され、“metabolically healthy obese” という概念も提唱されるようになっています。内臓脂肪蓄積の多寡はmetabolically healthy obese とmetabolically unhealthy obeseの違いの主要な説明要因と考えられます。

日本肥満学会はこのような先駆的な概念を世界に発信してきましたが、今回、小川渉学術委員長を研究代表者として、肥満症の診療情報を電子カルテから直接収集するシステムであるJ-ORBITを立ち上げることとなりました。肥満症に関するこのような包括的情報収集システムは世界で初めてのものであり、同様なシステムとしては、日本糖尿病学会が運用している診療録直結型糖尿病データベースJ-DREAMSがあるのみです。

減量・代謝改善手術の普及と新しい肥満症治療薬の開発により、今後わが国の肥満症診療は大きく変化していくと考えられます。このような時期にJ-ORBIT事業がスタートしたことには大変大きな意義があります。J-ORBIT事業によって、肥満症に関わる多くの重要な学術的知見が見出され、わが国の肥満症の研究・診療が更に発展してゆくことを期待しています。

日本肥満学会理事長
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院

門 脇 孝